医療機器におけるイノベーションとは何か?この問いに答えるのは難しい。実際、さまざまな議論が、さまざまな角度からなされている。
By: G.M. Samaras
まず、医療機器の技術革新を阻害する要因として語られるのが規制の問題だ。その多くが見当違いまたは関係のないことの議論であると私には思えてならない。代わりに、規制を回避しようとする努力が、安全で有効な医療機器の革新を阻害することに対する重要な寄与因子であるというのが私の意見である。 まずは用語を定義することから始めてみる。
当然、規制は発明に影響を与える。
その知的財産から利益を得る機会がほぼなければ、発明者はそのエネルギーをほかの箇所に集中させるだろう。
また、規制は革新にも影響を与える。事実、それは正に議会によって義務付けられたFDAの任務である。議会は、FDAが発明者でも、開業医でも、または消費者でもなく、メーカーを規制するように定めている。 開業医はそれぞれの州によって規制される。議会は消費者の健康を守るという義務をFDAに課している。
FDAの規制には、人生における他のあらゆるものと同じように、好ましい属性と嫌悪される属性がある。
例えば、メーカーの視点からのFDA規制の好ましい属性としては、製品が承認されたとき民事上の責任から逃れられること(510(k)を通して管理的に許可された場合を除く)、専有の設計および製造情報が保護されること、そして競争を劇的に減少させること(どんな企業でも医療機器分野に参入できるわけではない)を含む。
一方で、現代的なエンジニアリング実務(ハードウェア、ソフトウェア、および人的要因のための設計管理とリスクマネジメントを含む)が要求され、かつ説明責任(苦情処理や医療機器報告など)も要求される。
さらに認可と承認の完了にも時間がかかると考えられている。消費者の観点からのFDA規制の好ましい属性としては、メーカーに対して最善の実務と説明責任を要求することが含まれ、そして嫌悪される属性としては民事上の責任からメーカーが保護されること、設計および製造上の欠陥に関連する重要な知的財産情報が明かされず、発明革新し得るメーカー数を制限し(規制によって課せられた障害が大きすぎる)、説明責任の執行を強制せず、認可の完了が速すぎること(つまり臨床試験がない)が含まれる。お察しのとおり、一方が好ましいと考えることは、他方が嫌うことなのである。
規制当局側の観点からは、連邦法および過去に公布された規則によって制約されるだけでなく、議会によって定められた予算によって制約され、さらにはメーカー、開業医、消費者、および政治組織によって押したり引いたりと左右される。
当然、お役所仕事であるが、連邦、州、地域政府のあらゆるその他機関及び大企業のほとんどの部門と同様である。
FDA/CDRHの中核的プログラムである市販前届出システム、即ち、510(k)を本質的に廃止するための米国医学研究所(IOM)の最近の推奨は、投げかけられた具体的な疑問(510(k)プロセスは果たして最適なのか、そして最適でない場合何をすべきか)に基づいて、科学的且つ技術的に正しいものであったが、管理、商業、消費者の側面からは完全に支持できないものであった。
それが最適でないことはすでに分かっており、それをどのように変えるかではなく、置き換えることを提案しただけでは逆効果的に見える。お役所仕事はそれほど進み具合が俊敏でなく、恐らく今後もそれは変わらないだろう。
私はFDAの内部と外部の両方で仕事をする機会があった。機関内部から私が持った印象は、大多数はしっかりとした教育を受けており、善意があり、そして彼らの管理層が解釈するとおりの彼らの規則と法的制約の範囲内で運営されているというものである。
過去15年間にわたり、私は新興企業からグローバルな多国籍企業(そのほとんどが中小企業の集合体であり、かつての新興企業である)まで、さまざまな医療機器メーカーと仕事をしてきた。
最近John Dew氏が品質向上のための組織改革に関する記事で指摘したように、彼らは部門間で知識が共有されておらず、力が貯め込まれ、正規の規則(FDA検査官が監査する規則)が守られていない、区分化された「部族文化」として特徴付けられるかもしれない。
これは何も新しいことではない。デミングやジュラン、その他有名な指導者が昔から嘆いていることである。20年以上前の医療機器におけるメカトロニクスの始まりは、そのような退行的な管理とコミュニケーション構造の問題を示している。
内在するリスク、およびハードウェアとソフトウェアシステムに関連する重要な相互作用、そして人的要因の明確な理解とコミュニケーションがない、連携のない内部部門における医療機器の学際的な開発は、複雑さが増して品質問題が生じている。
しかし、「知らぬが仏」というように、そして通常は、消費者が負傷して原告の弁護士が訪ねてこない限り、何も悪いことは起こらない可能性が充分にある。
より最近の例が医療情報技術(HIT)である。ここに非常に複雑なソフトウェアと、歴史的に軽視されてきた人間工学とユーザビリティの問題を抱えた多かれ少なかれ標準のハードウェアがある。
HITのほぼすべての所有者が有害事象レポートを発表することが契約上禁止されており、HITの実装による直接的な結果である有害事象レポートの書棚が急増していることが分かり始めてきたこの時代、HITにFDA規制を回避させるというIOMの推奨は論理に反している。
各システムの「カスタマイズ」を利用者側に要求することによって(かつIOMはそれらが510(k)プロセスの対象とならないことを再び確約されるはず)、ベンダーが懸命に負担を利用者側に移そうとしても、リチャード・クック氏によって正しく指摘されているように、これらはクラスIII医療機器である。
それらの安全性と有効性の適切な保証なく、国の医療提供効率を高めることを期待した連邦政府の奨励でそれらの展開を促進させることは、先のIOMの回避可能な医療ミス予測の倍以上に達するリスクが生じる。
HITは適切に規制され、設計管理、リスクマネジメント、苦情処理、および医療機器レポートの対象となる必要がある。安全かつ効果的でありながら、利益を生み出すことは可能である。HITが医療の提供における効率を常に高めることができるかどうかはまだ未知数である。ほかの工業分野における情報技術の利用は入り混じった結果を呈している。
「FDAは遅すぎる」という主張はほぼ常にメリットがないというのが私の意見である。私はPMA、IDE、510(k)の提出を内部および外部の両方(クライアントとしておよび発見の過程での鑑定人としての両方)から見てきた。問題があった(またはあったはずの)ものは実際のところ提出においてFDAの規定、合意基準、および指針書に対する無知または誤解、リスク分析、ソフトウェアドキュメンテーション、人的要因テストなどの不足または欠陥、工学検証または工学的有効性確認の本当の意味の無理解、または欠陥のある生物統計試験設計及び分析などの欠陥があり、かつ少数のケースでは事実を誤って伝え、提出が真実であり、正確かつ完全であるという宣言に耐えることができないものもあった。
これは規制コンサルタントの売り込みのつもりではないが、これらの問題の多く(事実を誤って伝えたものを除く)は、充分なアドバイスを製品開発工程の始めに得て、実際にそれに従っていれば、発生しないものである。
私は相当数の規制コンサルティング企業の下請けをした経験があり、これらの人々と私は、聞く耳を持つ人であれば誰でも充分なアドバイスを不足なく得られることを知っている。
私の経験では、企業が単に作業を終えることだけを目的としておらず、提出要件のすべてを満たすことに注意を払っていれば、企業はめったに遅れを取ることはない。
また、監視官にもウェブやソーシャルメディアへの投稿、または時々の訪問だけでなく、コミュニケーションを改善し、手を差し伸べる余地がまだあると私は考えている。
医療機器を開発し、製造しているのは人間であり、そして医療機器を規制しているのもまた人間である。安全で効果的な医療機器を効率的に商品化できるように、これらの人々が他方の期待と観点をより理解するための継続的な信頼できる方法が不可欠である。人的要因の原則と実務を植えつける必要があるのは産業だけではないのである。
私はまた、「FDAは迅速過ぎる」というもう一方の主張に関しても同様の意見がある。産業と監視官が拠りどころとしなければならない規則を好まないのなら、プロセスの小さな一部を変えようとするよりも、むしろその規則を変えるべきである。
ただし、短期的な目的のみに重点をおかず、また特定の方向に有利になり過ぎないようにしないと、思いがけず望ましくない結果がもたらされるだろう。
連邦政府の規制は少数の厄介者向けのものである。残念ながら、特定のときに前もってその厄介者が誰であるかを知る方法がないため、皆が規制の対象とならなければならない。
抗ったりかわしたりするのではなく、企業がベストプラクティスに従えば、問題がより少なくなり、製品の安全性と有効性、そして収益性がより高まるのではないかと考える。
しかし、いつも誰かしらが自だけは特別だと考え、近道を行こうとするのである!
私はそれこそが医療機器の革新を妨げる(そして往々にして欠陥があるまたは危険な医療機器につながる)行為であると信じている。
提出が技術的に完全で正しく、論理的に提示され、すべての規制要件、関連の国際合意基準、および指針書に従っていれるしっかりと設計された製品は、規制プロセスによって世に出ることが遅れることはめったにない。
患者ケアにおける卓越性を示す高品質の医療機器の革新を第一としているメーカーは、誰も近道を行くことが許されていないということを会社が保証すべきである。
このアドバイスに従えば、長期的にその収益性が最大化し、医療機器産業の成長につれて雇用機会が広がるだろう。
製品の品質(トップレベルの属性:安全性、有効性、効率、およびユーザー満足度)は、慎重な作業と細部への注意の結果である。発売までの期間を短縮することはできるかもしれないが、これはしばしば品質と、最終的に収益性を損なう結果を招くおそれがある。技術者はそれを知っており、せっかちな管理者たちはこれを学ぶ必要がある。
著者:
GM Samaras is a biomedical scientist and engineer at Samaras & Associates Inc. (Pueblo, CO). Trained as an electrical engineer, he has doctorates in physiology and industrial engineering and is a licensed professional engineer, board-certified human factors engineer, and an ASQ-certified quality engineer. He has a number of biomedical patents and publications in physiology and engineering (hardware, software, human factors, and quality). He has worked at the FDA/CDRH as a reviewer and manager, was a medical school and engineering graduate school professor, and founded an engineering firm that he ran for a decade.
The opinions given here are solely those of the author and are subject to change as a result of new data.(本記事は著者の個人的見解であり、新たなデータが公表されたるなど状況の変化により意見が変わることもありえます)
本記事の初出は、2011年12月11日付け姉妹誌『MD+DI』。