国立精神・神経医療研究センター 神経研究所(NCNP)とワシントン大学生理学研究所(NIPS)らの研究グループが、運動中に手の感覚が抑制される新たな神経機構を解明した。
熱いものを手で触った時、無意識にその手を振った経験はないだろうか?そうすることで、「熱い」という感覚が軽減することはよく知られている。心理学的には、この運動時においては、末梢神経で感じる刺激を知覚しにくくなることが明らかにされているが、「どのような」神経の働きによって、また「何のために」感覚が抑制されるのかについては不明のままだった。
手の感覚はまず脊髄に伝達され、それが脊髄上行路を経由して大脳皮質に到達して、初めて「熱い」や「冷たい」などと知覚される。そこで、本研究グループは、この手の感覚神経経路に注目し、「手の感覚が脊髄に到達した時点で、すでに感覚が 抑制されている」という仮説を立てた。
今回、この仮説を検証するために、研究者らは、手の運動を行っているサルの皮膚感覚応答を脊髄と、大脳皮質で同時に測定する方法を新たに開発した。その結果、大脳皮質で記録される運動中の感覚抑制注)は脊髄で既に始まっていることを初めて証明した。
さらに、大脳皮質の運動野においては運動中だけでなく運動準備の段階からこの抑制が始まっており、この抑制が大きければ大きいほどサルは手を速く動かせることを発見。それによって運動時の感覚抑制の役割の1つが、より良い運動の準備状態を作るためであることが示唆された。
今回の研究成果は、自他の行動識別(自分の行動と、他人の行動により受け身で起こった運動の識別)に用いられている神経基盤の1つと考えられ、それが障害される統合失調症などの病態理解や診断に役立つことが期待される。
本研究は、科学技術振興機構(JST)の一環として、国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 モデル動物開発研究部の関 和彦 部長ワシントン大学 生理生物物理学部のE.フェッツ氏や自然科学研究機構生理学研究所との共同研究で行われ、その研究成果は、2012年1月18日(米国東部時間)発行の米国科学誌The Journal of Neuroscienceに掲載された。